1991年~2000年のテーマ

1991

「遠い国でのエルメス」Extreme Hermes

19号目となる「エルメスの世界」の19号目の表紙を飾るのは、エルメスでも代表的なシルクのカレ。カレには日本に伝わるある優美な小道具が描かれています。薫風、芳香、日出ずる国、日本をイメージさせるもの、それは扇子です。職人気質の伝統を現代に伝え、磨き抜かれた完璧な所作と細心の注意を払う眼差しは、20世紀最後になるこの10年を迎えた私達をなおも魅了し続けるでしょう。

1992

「海」La Mer

職人はアーティストとは異なり、美の想像だけでは満足する事は出来ないのです。その想像に加えて、質の高さが必要になるからです。手首からすべり落ちるブレスレット、色がにじんでしまうスカーフ、香りのとんだ香水はどうでしょうか?職人にとっては全くの無駄と言えるでしょう。職人の世界では、美と機能性は等しく大切であり、完璧さを追求する事とは職人である事と表裏一体なのです。

1993

「馬」Le Cheval

人生とは障害馬術競技に似たようなもの。だからこそエルメスは、その競技に出場する選手の精神を受継ついできた事を謗りに思っているのです。その事により障害を困難とは捉えず、むしろ更なる高みへの跳躍を見せて空高く舞い上がる絶好のチャンスだと考えられるからです。エルメスはこの跳躍で1993年へのバーを飛び越えたのです。そして次に待ち受けるのは、芝生の上を駆けまわる陽気なギャロップです。「アール・ドゥ・ヴィーヴル」とは、激しい戦いの中でも、気品、活力、安定を保ち続ける術を学ぶ事です。

1994

「太陽」Le Soleil

暁の鶏声が聞こえるならそれは夏の到来です。厩舎では歓喜の夜明け共に朝日を迎えるのです。扉を開け、馬に乗り出かけましょう! やがて、太陽が真上に昇った時、その光で果実を実らせ木々を喜ばせ、踊り手達の足元では焼付くような大地が響きわたるのです。それは日が暮れるまでギャロップで駆け巡るのです。金色に染まったトンボが、静かな池の水面を擦るたそがれ時までひたすらにです。そして休息を、そして明日という日を侍ちつつ…。エルメスは今年のテーマに【太陽】を讃えています。力漲る豊穣な太陽を、そしてアルゼンチンの広大な空と菜園が描きだす穏やかな世界、大空の下に輝いた人々の装い、そしてトスカーナの澄み切った空の下で紙の馬車を作った手の輝きを…。バンバ、ギャロップ、熱気…職人の手が紡ぎだす美とこの世が宿す美のどれもが幸福であり、人生を楽しむ為の秘訣になるのです。

1995

「道」La Route

1995年、エルメスがテーマとし挙げているのは「道」です。エルメスをこよなく愛してくださる皆様への質です。同じ場所にじっとしている事はできますか?きっと難しい事でしょう。なぜならばエルメスの象徴でもある馬車「カレーシュ」の車輪は回るようにできているからです。素敵なエルメスのスーツケースに素敵なエレガンスを詰めて、新たな発見の旅へと出かけてみましょう。その旅の終着点には、意外な人物があなたを待っている事でしょう。それはあなた自身です。すっかりと生まれ変わり、旅で得た本質を見抜く力をもった自分自身がそこにいる事でしょう。

1996

「音楽」La Musique

エルメスは1996年を、【音楽】を讃える一年としました。心動かし、感動を生み人々にオマージュを捧げるのです。昔モーツァルトが言いました「手仕事から聴こえる歌は【私は、愛を呼びかけあう音を探す】」と。エルメスの職人もまた、素材の各パーツを組合せる際にバッグの合わせ目を磨きながら、実はこの【愛を呼びかけあう音】を追求しています。エルメスの【妖精】と呼ばれている職人の手に掛かれば、ブティックのウィンドウの中の様々な色彩の完璧なハーモニーが合唱を始めます。アーティストは楽器を手に取り音をメロディへと変身させていきます。エルメスの職人も同じで、スカーフ職人、宝飾細工師、時計職人、調香師、仕立職人……彼らは皆、素材の放つ繊細な振動を巧みに聴き分け調律をしていきます。そしてそれぞれのリズムが合わさり、一つのメロディが誕生するのです。

1997

「アフリカ」L'Afriqua

パリのエルメスとアフリカの大地。この2つ世界はそんなにも遠いものでしょうか?私達の間には、そこまで違いがあるのでしょうか?この広い地球上には多くの種が生息しています。その中でもアフリカは、友愛に満ち、近づく事で恩恵をもたらしてくれる大地。そこでエルメスは1997年の幕開けと共に「アフリカ」を目指します。あるエピソードをご紹介します。エルメスの商標が付けられた作品には一つずつ名前が付けられています。命名が後はウィンドウの中で主人となる人と出会うのを侍ち、やがて主人となる人に渡る時が来ます。その瞬間、その作品は独特の輝きを発するようになるのです。持ち主との人生を共に歩みながら、不思議な話ですが、親愛の「情」を示すのです。アフリカではこれを「ものが語る」と言います。もうひとつ、お話しましょう。エルメスでは、創始者ティエリ・エルメスの考え無くしてエルメスは存在し得ません。アフリカでは祖先を敬い、考え方が遠い過去に根ざしていれば、目指す星は輝きを増す事でしょう。このエルメスの在り方はいわば「アフリカ的」と言ってもいいのではないでしょうか。

1998

「木」L'arbre

1998年のエルメスは「木」をテーマに挙げています。「木を見つめ、木とならん」とある俳句の一説にあります。木を見つめると、春の訪れ共に木々達は花を咲かせていきます。初夏には新緑が輝き、秋の森には紅葉が広がり、冬の静寂は世界を安らぎへ導くのです。子供たちは毎日木に登り、鳥の様に高い枝へと止まります。こちらでは人々が木から果実を摘み、あちらでは薪が作られます。夜、ごちそうの用意が済むとともに暖炉は燃え盛り、笑い声が響く宴の時。語り継がれるのは、女神アテナが自らの民を養うために、またその病を癒し、行く手を照らし暖をとるためにオリーブの木を贈ったという物語。夜が明ければ、册まり返った工房では、弦楽器職人が樹齢百年もの松の木から一本のヴァイオリンを生み出すのでしょう。もし木がなかったら、わたしたもの生活はどうなっていたでしょう?1998年、エルメスは「木」を讃えます。ある俳句に≪木を見つめ、木とならん≫とあります。若い目を励まし育て、活力みなぎる根から芳醇な樹液を行き渡らせ、頭上の枝が指し示す遥か彼方を見上げ、実り多き人生を送ろうではありませんか!

1999

「星」Dans les Etoiles

時の流れについて聖アンブロシウスの言葉で「時間は、世界が存在した時より同じく存在する」があります。要するに、天地創造以前には時間は存在しなかったということではないでしょうか? ただできればこうも考えたい。個々人において何かを感じ取る度にに新たな時間が始まるのだと。そして後継者に受け継がれる時、その活動の中にもその時間は続いていくという事。どんな事を行う上にも肝心なのは気持ちの勢いです。時が留まる事はない為、人生において常に質の向上を目標に自ら課すべきだと思います。だからこそ、エルメスはお客様に「またお越しくださいませ」と、希望を胸に別れを伝えているのかもしれません。同じように皮革職人も、長い時間を掛けて完成させたバッグを最後の一撫でとともに心静かに送り出せるのかもしれません。カレのデザイナー達も、自身の手掛けた最新のデザインの上で色が乾き切るのを夜遅くまで見守っていたかもしれません。そして20世紀の最後となる1999年。エルメスは皆さまを星の世界へとお連れいたします。上品で美しさを放ち、白く輝きに包まれた蒼き地球を、心ゆくまで堪能できる宇宙まで。1999年のエルメスにとって、社名にもなっている神々の使者「エルメス神」に敬意を表する絶好の機会であると考えているのです。カカトに羽を付け堂々と飛び立とうとしているエルメス神は、伝令役として、神と人間を結びつける事を任務として遂行していました。もし、あなたも同じく、世界は数多くの連続する瞬間によって成り立っているとしたらサンザシの香りが星座の動向に影響を与えるのではないでしょうか?是非、エルメスと共に星の世界へと旅立ちましょう。

2000

「新世紀の第一歩」 Premiers pas dans le siecle A la decouverte de la beaute du monde

幾世紀にもわたり受け継がれ続ける微笑、または世紀すら越えて伝えられる微笑。「浅瀬踏む、サンダル片手に、夏謳歌」あるいは、「首痛し、ひねもす愛でし、桜かな」2000年という素晴らしき年を迎えるのにふさわしく、明るく元気な気分にしてくれる日本の俳句。そこでエルメスはサンダルではなく透明なクリスタルのグラスを手にしたのです。そのグラスの中にはメゾンに昔から伝わる無垢なる探求心と知識が融合したカクテルが発砲し、キラキラと輝き満ちています。これこそエルメスが皆様にお届けしたいものなのです。職人にとっては「手」が一番基本的な道具になり、独創性は創作にとって必要不可欠。そして「微笑み」こそ大事なマスターキーでどんなに硬い鉄の門で冴え魅了して開かせてしまうような魔法の呪文になるのです。このわずか3つの言葉から芸術を讃える見事な一句が生まれるように、人間の力は秘められた本質を普遍的なものへと進化させることができるのです。